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佐野日本大学中等教育学校

コミュニティ

【校長室だより】

山の思い出②

 今回は私の好きな山についてです。山にはそれぞれ個性があり、登った山はどれも印象深いものばかりです。そんな中で私の大好きな山の一つが南アルプスの「甲斐駒ヶ岳(2967m)」です。日本には駒ケ岳という名前の山はいくつかありますが、その駒ケ岳の中では最も高い山になります。山容は本当に恰好がいい山で「南アルプスの貴公子」とよく紹介されています。以前、あるメーカーの<天然水のコマーシャル>のバックに映し出されていたのが「甲斐駒ヶ岳」でした。頂上付近が花崗岩で覆われているので、夏でも雪を頂いているように見えるのが特徴です。そんな「甲斐駒」を私はこれまで3度登りました。登山ルートは複数ありますが、3度とも「竹宇駒ケ岳神社」から登っていく「黒戸尾根ルート」から頂上を目指しました。このルートは日本三大急登にも数えられ、アップダウンが続く樹林帯を長時間登り、途中から鎖場や梯子が次から次に現れるかなり険しい登山道です。頂上までは9時間以上かかるので1日目は7合目を目指し、2日目に頂上へと向かいます。

 私が初めて仲間2人と「甲斐駒ヶ岳」に登ったのは大学1年生の夏でした。新宿を夜11時過ぎ発車する松本方面行きの急行「アルプス」(当時は何本も出ていて南アルプスや北アルプスへ向かう登山者が大勢利用していた)で山梨県の韮崎まで向かいます。午前2時半ごろに韮崎に着くと、今度はタクシーで登山口になる「竹宇駒ケ岳神社」に向かいます。到着後、休憩や登山の準備をしてから、午前4時くらいだったと記憶していますが、神社に無事登山ができるよう祈願してから山行をはじめました。その日は七丈小屋がある7合目を目指します。最初の30~40分くらいはまだ体が山登りに馴染んでいないためか、苦しく辛いばかりで、「今なら間に合う。引き返そうか」などと考えながら登っているうちに徐々に体が山登りモードになって行くのが感じられるようになります。

 夏の山は大抵午後には雷雨がやってきます。この時も昼過ぎたあたりから遠くで雷鳴が聞こえ始めていました。午後零時過ぎに七丈小屋に到着しましたが、疲労困憊状態で言葉も発せられないほどへとへとになっていました。それでも少しの休憩のあと早速幕営地でテントを張り雷雨に備えます。午後1時過ぎくらいだったと思いますが、いよいよ「雷様<らいさま>」がやってきました。私たち3人はテントの中でおそらく2時間ほどでしたが稲妻に慄きながら通り過ぎるのをじっと待ちました。とにかく山での雷雨の迫力は平地とは比べものになりません。高所にいる分、自分たちと同じ高さで雷鳴が轟いているようで、‟怖い“の一言に尽きます。午後3時くらいになると雨も上がり雷鳴もあっという間に遠くに去って行きました。テントを出ると、眼下に雲海が広がりその眺めには感動しました。下界の喧騒から完全に離れた別世界にいるという不思議な感覚もありました。その後は仲間と夕食を作り食べ、寝るまでの間、涼風を体に感じながら、満点の星空を眺め遠い宇宙に思いを馳せ、苦しかった黒戸尾根の登りを振り返りつつ、その苦しさを共有した仲間と心行くまで語り合いました。

 翌朝の天気は快晴で、まさに紺碧の空でした。朝食を済ませると、テントをたたみ、いよいよ「甲斐駒ヶ岳」の頂上を目指します。出発は遅めの午前7時くらいでした。私たちはまばゆい日差しを受けながら頂上へと続く稜線を登って行きました。しばらくすると森林限界を超えたのでしょうか、ハイマツが広がる景色に変わりました。しばらく花崗岩の山肌とハイマツの中を登って行くと甲斐駒ヶ岳の脇に構えている「摩利支天」が近づいてきました。その時でした。何やらカエルの鳴き声が聞こえてくるではないでしょうか。仲間も「カエルがこんなところにいるのか?」と不思議に思ったわけですが、鳴き声のする方をじっと観察していたら声の主が2~3メートル先に姿を現しました。何と「ライチョウ(雷鳥)」の親子だったのです。ハイマツなどを啄みながらゆっくりと移動していたのでした。人を恐れる様子は全くなく、幸運にもこの親子を写真に収めることもできました。その後、親子は徐々に私たちから遠ざかって行きました。

 そしてさらに登って行くと、真っ白い花崗岩に覆われている頂上に到着です。私たち3人は、頂上に鎮座する小さな駒ケ岳神社本社の祠にまず感謝し、北岳、仙丈ケ岳、鋸岳など南アルプスの名峰、八ヶ岳や北アルプスの山々、そして富士山も望むことができる大パノラマを堪能しました。頂上付近は他の登山者は少なく、私たちは記念写真を撮ったりしながらゆっくりと過ごすことができました。稜線からの心地よい風を受けながら、それまでの厳しい山行が報われたような充実した気持ちで、山頂から眺める風景は最高の気分でした。そして何よりも仲間と苦しさや喜びを共に分かち合ったことが私にとっての宝物となりました。本当に来てよかったと心から思える山行でした。(2025.8.18)